B級グルメ

B級探偵「カルッポ・マーロウ」のグルメ捜査 ~ガストの500円(ワンコイン)ランチ

センタープレスの黒パンツにトレンチコート。バイクこそべスパではないが、125ccのホンダに跨り、あらゆる現場にひとっ飛び ――

男の名はフィリップ……ではなく、カロップ・マーロウ。ハードでタフな捜査は大歓迎と大看板をあげたところで、仕事のほとんどはケチな浮気調査だ。ありふれたランデブー。燃えさかる炎の渦に向こう見ずな男女がもつれあい、それを見つめる男女の瞳には恨み辛みの火が燃える。

穴だらけのホースを抱え、うらぶれた町のボヤを消したり、消さなかったりするマーロウ。そんなB級探偵も、時間になれば決まって腹が減るのであった。

時間は14:00過ぎ。遅めの昼、彼がバイクを停めたのは ――

 

バイクを停め、看板を見上げる

そこは6号線が最も渋滞する交差点だった。あらゆる世代や性別の人間が行き交い、人間でないものの往来もあった。つまり6号線で最も事故の確率が高い場所だった。私は左折し、駐輪スペースでバイクから降りた。椅子が1つしかないバイク。今だかつて椅子が2つあるバイクにはお目にかかったことがない。

「サイドカー? あれはバイクじゃなくてオープンカーだ」と笑ったのは床屋のマサだ。

私は、マサの調査を引き受けていた。たいした仕事ではない。マサの浮気相手を突き止めれば多少の金を払ってもいいと、女房は考えたのだ。

結局浮気相手は分からなかった。女房はお見通しだったのだ。旦那が浮気をしていないということを。そもそも、そんな甲斐性がないことを。なのに浮気調査? すべては私にマサを尾行させるための方便だったわけだ。

12月の空は青ざめていた。6号線はいつにも増して混んでいた。サイレンが鳴った。甲高い響きを追うように赤灯を回すパトカーが行った。私は駐車場でバイクを降り、ガストの看板を見上げた。6号線に張り出したネオンサインだ。一人の女が同じように、そのネオンサインを見上げていた。また音がした。女がタイトジーンズの尻ポケットから、真っ赤なスマホを取り出した。

 

ガストに入店する

「もしもし?」
女が電話に出た。南部なまりのある、ハスキーな声だった。
「はい、はい」と女は相槌を打った。妙に濡れた響きだった。私は女のあとを尾け、ガストに入った。テーブルは左奥。右奥が着いたテーブルの真裏だ。
「ああ、申し訳ありません。ふだんは電話では話をしなくって」と女が言った。
私はバッグからタブレットを取り出し、イヤホンのプラグを差し込んだ。
「ええ、メールです。いえ、わたし……秘書です。ほんとうです」
私はイヤホンを耳に付け、続いてホーム画面を2回、横スクロールした。右下の赤と黒のアイコンをタッチした。次いでマイクのアイコンに触れ、表示された「REC」のボタンを指先で押した。
「伝言なら、わたしが承ります」
12/11。14:20。録音中。晴れ。
「はい、お伝えいたします」
タブレットに表示された波形のラインが、女の声の響きと連動する。
「弊社にご相談ですか?」
「オフィスに行きたい」と男の声がした。モニタの波形が、低音に膨らんだ。
「彼に会いたいんだ」と男が言う。
「それは、ご相談ですか? お仕事の?」
「詳しくは会って話す。会いたい。今すぐだ」
「今日は打ち合わせが続いていまして」と女は声を落とした。「たぶん明日、明後日なら……確認してみます」
「その必要はない」と男は言った。「書くものはあるか?」
「書くものですか? ええ……はい。鉛筆があります」と女は律儀に言った。
「書き留めてくれ。月曜と木曜はハンバーグデミグラスソース&コロッケ。火曜日はチキングリル和風ソース&アジフライ。水曜はハンバーグトマトソース&白身魚フライ。金曜はてりやきチキン&コロッケ」
「ハンバーグデミグラスソース&コロッケだけ、どうして月曜と木曜に……」
「心配いらない」と男は言った。
「私が会いたがっていると、彼に伝えてくれればいい。ああ、サイドカーの件で。緊急なんだ。ある人間の生き死にが関わっている。お・お・い・そ・ぎ」

 

メニューを注文する

「書き留めたかな?」と男が言った。
「はい、メモしました」
「折り返しのコールを頼む。それと、もうひとつ。おすすめはピザだ。いいかい? 博多明太とインカの目覚め、生クリームとろりの限定ピザ。これで決まりだ」
私はイヤホンを外し、店員を呼んだ。

「博多明太とインカの目覚め、生クリームとろりの限定ピザをください」
「……はあ」
店員が首をかしげ、私の目を覗いた。
「そのようなメニューは……当店には……」
私はメニューを見返し、ハンバーグトマトソース&白身魚フライ(499円)を注文した。
「お水はセルフになっております」
タブレットが光った。着信だった。ふたたびイヤホンを装着し、通話ボタンを押した。
「嘘をついたな」と私は言った。
沈黙があった。暗闇に耳をあて、何かを探り当てるような静けさだった。
「忘れよう、その件は」と男は言った。「彼女に会ったよ。俺のところにやってきて、あらいざらい喋っていった。彼女の母親はたまたま俺の知っている人でね」と男はまくしたてた。さらに、「違う。違う。そうじゃない。尊敬していたよ」と付け加えた。
「あんたはおれに嘘をつき、あんたは彼女の母を知っていた」と私は言った。
「オウムかよ」彼が冷たく言った。「俺だって、いちいち電話なんてしたくない。なのに、こうして連絡している。約束は守ってくれるんだろうな? 大きなヤマだ。真剣だ」
「船首と船尾が入れ替わったわけだ。なるほど」
「回りくどい言い方はよせ」
「ところで、明太とタラコの違いはなんだ?」と私は聞いた。
「忘れろと言った」
「なぜインカの目覚めだった」
あくびの音がした。
「聞こえたぞ」
こんどは背伸びをしているようだ。
「文句を言える立場じゃないと、踏んでるんだろう? しかし、しかしだよ。腹が減ってるんだ、おれは」
「すべて書いてある、新聞に」と男は言った。
「新聞に? まるで、そうじゃないことまで知ってるみたいじゃないか。明太とタラコの違いは?」と私は言った。
「二度だ」と彼は言った。「三度目はない」
「饒舌だな」と私は言った。「弾んだ調子で、最近気に入ったあの子の唇について話そうか? ぶあつくて、ぷりっとしてて、赤らんでいて……そうだな。タラコのような」
ツーツー。通話が切られた。明太子は辛い。たらこは辛くない。まあいいさ。

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ハンバーグトマトソース&白身魚フライを食べる

口直しに店内を歩き回った。一周目は手ぶら、二周目は手にドリンクのコップを持った。そのままの格好で歩き続けると「ママぁ。あの人……」と声がした。不思議そうな顔をした幼児が私を見ていた。茶色のティシャツに白い太字でシャネルズと印刷されていた。
「こら。見るんじゃないの」
母親は私から目を逸らし、「こら。見るな」と子を諭した。

テーブルに戻って酒を飲んだ。嘘だ。バイクで来ているし、飲むはずがない。時計を見た。モニタの電源を付けると14時36分だった。ただ、何時だか……よく分からなかった。やっぱり酔ってるのかもしれない。
「お待たせしました。本日のランチでございます」
大皿にハンバーグとどろっとしたトマトソース、ちくわくらいの大きさのフライがタルタルソースに刺さっていた。レタス、細切りのキャベツ・紫キャベツ・ニンジンが付け合せ。白いカップにはコンソメスープが湯気を立てていた。
「ライスは大盛りか?」
声の出所に顔を向けたが、誰もいなかった。酔っているのかもしれない。胸を撫でた。硬く、薄いなにかが手に当たった。取り出したカードに名前があった。大納言雅之。56歳。職業・心霊師。教祖。あらゆるテーマの相談が可能。予約のみ取り扱い。現金・クレジットカード・各種電子マネーも使えます。大題寺雅之。山師。ペテン師。オカルト。煙草のかわりに女の指をくわえる男、それも、あろうことか、息を引き取った女の指を。

ナイフを手に取り、ハンバーグに押し当てる。つよく引かなくても肉はほどけた。酸味が飛んだトマトソースにディップして、ライスの上に跳ねさせた。ピュっと目元に飛んだ。それを手の甲で拭ったとき、メガネがライス皿の上に落ちた。一瞬、体が固まった。まずは紙ナプキンだ。レンズに付着した米粒を擦り取った。しかし、米粒はナプキンで潰れ、レンズ上に糊のようにひろがった。トマトソースの表面が硬くなり、ハンバーグの熱っぽさも薄れていく。ライスの湯気の量も減った。私はメガネを諦め、食事を再開した。フォークで米をすくい、その先端を切り分けたハンバーグに差し込んだ。ぐいっとソースの上を滑らせ、おもむろに口に運ぶ。口角にフォークの先っぽがあたり、ライスもハンバーグもテーブルの上に落ちた。

視線を感じた。赤いスマホの女が私を見ていた。彼女は2秒ほどこちらを見つめ、面持ちを変えることはなかった。私も彼女をじいっと見ながら、スープを啜った。それもあっけなくこぼれ、膝元がびしゃびしゃになった。彼女は私の口のなかからスープが無くなるのを見届け、顔を落とすと手元の紙に何かを書きつけた。

来客を知らせるベルが鳴った。出入り口に目を向けると若い女がいた。ピンクアッシュの髪の毛に赤い口紅。パツパツの黒いジャージのサイドには赤いラインが入っていた。この女を守護するみたいに、男がひとり立っていた。サングラスに髭、長身。そしてオールバックの黒髪。見覚えがあった。甲斐性無しのマサだった。

 

ガストのランチ!

 

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